有機合成化学を基盤とした天然物の研究
キーワード:天然物化学, 有機合成化学, 全合成, 構造決定・改訂
マイトトキシンの合成研究(博士論文)
マイトトキシン(MTX)は海洋性の渦鞭毛藻が産生する天然物で分子量3422とペプチドを除いた二次代謝産物の中で最大の有機化合物であり、シガテラ食中毒の原因毒の1つとして知られている。所属研究室ではこれまでMTXの合成研究を行っており、マイトトキシンの約1/3の部分に相当するWXYZA'B'C'D'E'F'環部の合成を計画した。合成には所属研究室で開発した収束的二環構築法であるα-シアノエーテル法を応用し、WXYZA'B'C'D'E'F'環部の合成に世界で初めて成功した。合成した部分構造の分子量は1140であり、最長直線工程数は53段階、総工程数は104段階であった。
マイトトキシン(MTX)の構造
合成の概略
マイトトキシンのWXYZA'B'C'D'E'F'環部の合成研究では、原料から104段階の工程数が必要であった。このような多段階反応では、仮に1段階当たりの収率が90%であったとしても10段階反応を進めた場合、総収率は35%まで低下する。したがって、天然物の合成研究において合成初期段階の中間体を大量に合成することは重要な課題である。そこで、原料の合成にマイクロフローリアクターを用いた大量合成法を適用することを試みた。原料および試薬をガスタイトシリンジに充填し、マイクロフローリアクターに順次送液していくことで反応を行い、84gの原料を変換することに成功した。
マイクロフローリタクターを用いた大量合成
カルロトキシン2のC30-C63部分の合成と構造改訂
カルロトキシン2(KmTx2)は渦鞭毛藻Karlodinium veneficumから単離された天然有機化合物である。KmTx2の構造は2010年に報告されたが、所属研究室での行っていた類似の天然物の研究結果からその一部に誤りがあることが示唆された。そこで、モデル化合物として、カルロトキシンの提出構造と推定構造のC30-C63部分に相当する構造を合成し、NMRスペクトルの測定を行った。その結果、予想通り報告されていた構造の一部に誤りがあり構造改訂を報告した。